第二十九話 熊本に本社 だから勝てる
創業時、弱者が強者の既存店に競争を挑むには、販売地域を限定し、強い地盤をつくる一点集中主義の局地戦しか道はありません。
強い競争相手を避け、勝ちやすい地域を選ぶ。メガネ店のない小さな町に大きな店をつくりました。体力をつけるための多店舗化でもあり、弱者の小商圏戦略を忠実に守り、出店していきました。
弱者に徹し、長時間労働を継続するには身内に頼るしかありません。私たち夫婦、弟夫婦。1店舗を軌道に乗せると、小売り業界では隣に競合店ができるのは常です。本店の道を隔てた目の前に他店ができたときはびっくりしました。けれども仕方ない。戦いを挑まれたら迎え撃つしかありません。
高品質のレンズを好条件で仕入れるため、HOYA一社に絞り、特に社員教育にHOYAの支援をいただいた。取引高が大きくないとメーカーにとってもメリットがありません。取引先とはウィン・ウィンの関係でないと長続きしません。
100店舗で売上高が70億円を超えた平成6(1994)年、大和證券より株式店頭公開の提案をいただきました。県外に積極的に出店するには資金が要ります。株の公開で資金調達が容易になるとのことでした。
大変魅力的な提案でした。公開準備室をつくり平成9年の株式店頭公開に向け社内体制を整えました。ところが、私が関係している社会福祉法人に対する寄付額の大きさが株主総会で問題視されると指摘されました。
株を公開するのであれば、寄付はストップしなければなりません。決断を迫られ、株式公開を断念しました。今振り返れば、カネ優先の利益を出すからくりのようでもあり、公開せずに良かったと思っています。
そのころから、本社を東京に移したら、あるいは福岡に移したらとか、M&A(合併・買収)のお誘いとか、いろいろな提案があります。
私の器以上にグループが大きくなり、私の能力を心配しての親切心とは思います。しかし、ヨネザワは熊本に本社があるから全国チェーンの競合他社に九州では勝てるのです。小商圏戦略を進めるのに熊本はぴったりなのです。都会に本社を移したらすぐつぶれたでしょう。