第三十七話 社員の雇用継続を優先
経営を引き継いだ店舗内装業の「美創」=熊本市東区尾ノ上
平成19(2007)年6月1日、株式会社「美創」(熊本市東区)の社長田山秀幸さんより営業譲渡の依頼がありました。
美創はヨネザワグループの建築から内装までの大部分を受け持っていた関係で、田山社長とは公私ともに親しくさせていただき、義理人情に厚い人柄には好感が持てました。
美創は店舗内装業がメーンで建築や不動産業にも携わっていました。土地建物をいくつも所有され、借り入れも多かった。取引は旧熊本ファミリー銀行だけに絞り良好な関係でしたが、バブル崩壊で土地建物の評価が下落し、担保不足に陥っていました。
そこに福岡銀行との合併などがあり、銀行との交渉が従来のように人間関係による情の取引がうまくいかず、苦労しておられました。バブル崩壊のツメ跡はあらゆる業界に残り、他人事ではありませんでした。
田山社長は数社の支援企業を慎重に検討された上で、銀行員も同行して来社されました。経営不振による最悪の事態を回避するためグループ企業に加えてほしい、とのご依頼でした。
会社そのものの継続ではなく、美創の商号と営業活動の継承であり、社員の継続雇用を約束してほしい。残った会社と債務は自分の責任で銀行と交渉する。仕事を継続することにより、地域社会や取引先、また従業員と家族に迷惑をかけずに整理を進めたい。経営不振を招いた社長として責任をとり、自分は退くが、社員に責任はなく優秀な人たちだからぜひ協力してほしいとのことでした。
お話を聞き、社員に対する愛情、取引先を大切にする気持ちがひしひしと伝わりました。内容はともかくお引き受けしました。
田山社長のお言葉通り、社員の資質は高く、資金の問題が片付けばさらに伸びる要素があると確信しました。最初の2年間は試行錯誤が続きましたが、優秀な社員たちに恵まれ、業績も3年目から好転、お客さまの評判もよいものでした。
心配していた財務内容は改善され、私の出番はほとんどなく、現在の田中芳和社長を中心に立派に運営されています。
田山さんご夫妻は美創を退いた後、新たな人生を謳歌[おうか]しておられます。